「世界が終の棲み家 新しい日本のかたち」 “好評!第3刷”
2008年8月に刊行されたこの本は、小川郷太郎の40年にわたる外交官生活の経験をエピソードや所感、主張を混じえて語るものである。「世界が終の棲み家」とは、著者が世界の8カ国に勤務し、各任地での人々との接触を通じて得た感慨、すなわち、世界はどこにも面白い文化や心の温かい人々がおり、交流すれば同じ人間として気持ちが通じ合うものだ、退職したらフランスにも住んでみたい、カンボジアや韓国にも戻って多くの友人を再訪したいなどの気持ちが背景となっている。
この書名は、小林一茶が晩年諸国を旅して故郷に戻って「是がまあ ついの棲家か 雪五尺」と詠じたときの感慨に、自分が40年にわたる世界行脚の旅を終えたときの「いや、自分のこれからの棲み家は世界にある」との思いを重ねたことに由来する。それだけではない。外国から帰ってみると、内向きで視野狭窄に陥っている今の日本を慨嘆し、相互依存関係が深まっている今日こそ、日本は外に目を向けて世界を終の棲み家と考えて行動すべきだという主張をも重ね合わせている。この観点から、各章では、任地で体験した様々なエピソードを紹介しながら、日本にいるだけではわからないと思われることを書こうとした。
「新しい日本のかたち」は副題であるが、日本は多くの特色や強みを持っており世界の多くの国から関心をもたれ評価されている大きな国であることを指摘したうえで、世界に貢献し、品格のある日本の国家像を提言しようとの著者の意図を表すものである。
本書の目次を以下に紹介しよう。
序章:なぜ、外交官か
第一章:フランスの魅力:生活の質、個性、コスモポリタニスム
第二章:政治の体制と国民:旧ソ連の悲哀
第三章:韓国にて:戦争、植民地統治、人の心
第四章:カンボジアでの思い:貧困、開発、ODA
第五章:世界から学ぶ
第六章:日本の生きる道:日本の「国柄」、「国家の品格」
この本を流れる主要なテーマは、戦争と平和、人間の気持ち、人間の尊厳などがあり、豊富な具体的エピソードや事実を踏まえ、歴史問題における被害者と加害者のギャップ、ODAの拡充の必要性などの著者の主張が熱く語られている。著者の思想と行動を知ることによって、外交官の活動の一端も窺い知ることもできる。
いくつかの新聞や雑誌が書評を掲げたが、平成20年(2008年)8月31日付毎日新聞の書評は次のように述べている。
”外交には「人間の心」が大事だ。40年間の外交官生活を振り返って著者はそう断言する。日本は大きな底力を持ち、信頼も期待もされていることを各地で体感してきた。その経験を語り、日本の進むべき道を考察したのがこの本だ。「世界が終の…」という書名には 「自身も日本も」という思いがこもる。 柔道が縁で思わぬ人脈が広がったフランスでの研修生活。旧ソ連、韓国、カンボジアと、人との出会いを楽しみ、大切にする仕事が続いた。 イラク戦争には「強い疑問を持ち、部内で異見を表明した」のだが、皮肉にも最後の仕事はイラクとアフガニスタンの復興支援だった。だが、現地で苦しんでいる人を思えば迷いはなかったという。豊富なエピソードで語られる人間臭い外交論だ。”
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瀬戸内寂聴氏が推薦の帯を書いて下さった。