小川郷太郎の「日本と世界」

ロンドン後の騒ぎ

 

ショック
ロンドン五輪での柔道の結果は日本人にとって単に大きな失望であっただけでなく、柔道界に波乱を起こしかねないものでもあった。金メダルひとつ、銀、銅それぞれ3つずつという結果は国民の期待からほど遠いものだった。男子の金メダル・ゼロはオリンピックでは初めてで、2009年のロッテルダムでの世界選手権を入れると2度目だ。メディアは、「金ゼロ」とセンセーショナルに見出しを付けた。金メダル数でロシア、フランス、韓国の後塵を拝したため、「衰退」「墜落」などと新聞で指弾された。柔道界指導部にとっては身に沁みる困惑の敗北であり、一般国民にとっては不満、さらには怒りさえ覚えるものだ。吉村強化委員長は大会直後に辞意を示したが、篠原、岡田の両監督の留任を希望した。記者からの質問攻めに会い、篠原監督は「精神面をもっと強化すべきであった」「これからやらなければならないことは選手の体力とメンタルの強化だ」と語った。

何が問題か
 山下泰裕氏は朝日新聞で「今回の日本男子は実力通りの結果が出た。・・・大会前から『男子は金ゼロもありうる』と言われていたが、その通りの結果。・・・この1年間で外国選手は強くなったが、日本選手は若手もベテランも伸びきれなかった。大会に焦点を合わせたコンディション作りが十分ではなかったのではないか。・・・そして何よりも希薄、相手に向かっていく気持ち、限界に挑む雰囲気が感じられなかった。・・・どこに問題があったのか、しっかり総括する必要がある。」と述べている。
 その問題とは何か。まず国内の問題を見てみたい。従来型の精神力鍛錬と管理主義的な指導方法を中心とした選手強化のシステムがある。日本では金メダルをとることが至上命令である。この目標達成のためには常に最大限の練習をこなし、コーチの言うことをそのまま聞かなくてはならない。このやり方では、金メダル以外は価値がないという考えにもなりがちだ。金メダル獲得の気持ちを持っても実際には限界がある。中矢力(81㎏級)は、決勝で負けて「自分はまだ弱い。きわめて力不足だ」と顔を硬ばらせて暗い声で語った。3位に終わった西山将士(90㎏級)は「負けたのは屈辱だ」とやっと声に出した。落胆する気持ちはわからないわけではないが、こうした言葉には前向きさが感じられない。反抗心もあまりない。自分に対し不満を持ち、疲れ切ったり、怪我からの回復もできていない選手たち。山下氏はあえて調整不足とは言わずコンディション不良と言ったが、それはこういうことを指すのだと理解しなければならない。組み手、スピード、筋力、さらには寝技までも日本人選手より強い外国の選手にうまく対応できなかったことをどう考えるべきか。重量級の穴井や上川が簡単にひっくり返されて抑込まれたのは日本にとって屈辱的だ。明らかに男子チームは準備ができていなかった。

軍鶏の喧嘩
 金メダル数個という予想を聞いて、何百万、何千万という日本人がテレビで柔道を見た。私に感想を述べた人たちは、柔道は面白くなかったと述べた。あまりにも指導や旗判定で決まる試合が多すぎ、また当地では「軍鶏の喧嘩」いわれる組み手争いがあまりにも頻繁に、また長く続く。選手や審判員に不安感を与える審判員(ジュリー)の介入姿勢も酷かったからだ。こうした国際試合での問題点も日本で議論に昇るようになった。

どうしたらよいか
 強化陣の交替や指導方法を変えることを要求する人も出てきた。本来保守的な日本の柔道界はそれを実行できるであろうか。全柔連がこの困った状況にいかに対応していくのかを見るにはもう少し時間がかかるだろう。国際的側面については、どうしたら柔道をもっと面白くさせるかが課題だ。試合ルールと審判方法を再検討しなければなるまい。上村春樹全柔連会長は日本人に対して、「礼節を守り、しっかり組んで合理的な技を掛けて一本をとる柔道を目指すように」と常にメッセージを送っている。こうした問題について日本人は解決策を持っているが、国際的議論ではおとなしく黙っている。日本柔道界が責任を持って他国の連盟とも緊密に連携しながら行動する時が来ている。フランスはこの点でよいパートナーになれる。そのためには人材も予算も必要になる。