小川郷太郎の「日本と世界」

日本は発信力を強化していきたい 

全柔連の宗岡正二会長は昨年8月に就任した際、私にひとつの任務を付与した。私が数年にわたり本誌のこの欄で読者の皆様に伝えてきた柔道に関するメッセージやビジョン、さらには私の個人のホームページ「柔道:日本の声(www.judo-voj.com)」を通じて発信してきた事柄は、いずれも私が皆さまと共有したい事項であるが、国際関係担当の特別顧問でとして、それらをさらに海外に伝えることも、任務の中に入っている。また私はすでにずっと以前から、日本が柔道の創始国であり、当然ながら柔道について高い技術レベルを有し語るべき多くのことを持っているにもかかわらず、充分発信してこなかったと思っている。私がこの任務を受けた理由がこの点にもある。この新しい任務には責任が伴う。柔道の健全な発展に寄与することは、嘉納治五郎師範が創った柔道に関する諸問題について日本の意見を表明することから始めるべきである。だから、全柔連のこの新しい仕事を与えられたのは私にとって喜びであり光栄でもあるが、課題も少なくない。
正直に言おう。自分に自信があるわけではない。私は50年以上柔道をやってきた。柔道が好きで、いまでも稽古をしている。ただ、確かに外交官として40年間仕事をしてきたが、柔道家としては実績がない。従って、これまで、今日の国際柔道界の責任ある地位にある人々との接触を保とうとしてはこなかったわけだ。日本は現在、国際柔道連盟やアジア柔道連盟における代表性が弱い状況にある。全柔連の執行部交代に伴い、上村春樹前会長は自らマリウス・ビゼール会長のチームから去って行った。その結果、国際柔道連盟執行部には日本人役員は皆無となった。このため、私の仕事は容易ではない。構築していかなければならないことが多くある。何ができるのか、何をしなければならないのだろうか。全柔連は国内外でなすべきことを検討しているが、優先的目標のひとつとして、国際柔道界での作業に日本がより深く関わることがある。そのために求められるのは、宗岡会長、山下副会長ら全柔連の新執行部と国際柔道界の有力者との間に信頼関係を構築することである。世界的規模の製鉄会社の会長を務める宗岡氏は、大きな国際大会やIJF主催の柔道関連行事にいつも出るわけにはいかない。従って、実際には、2007年以来国際的舞台から遠ざかっていた山下泰裕副会長が宗岡会長の不在の場合に公式に日本代表として重要な役割を果たすことになろう。山下氏は国際的知名度が抜群で世界中に柔道家の友人を持っている。山下氏の周囲には、優秀な柔道家や柔道専門家がいる。細川伸二、川口考夫、大辻広文氏らは国際柔道連盟、アジア柔道連盟の委員会等の作業に参加している。
私の役割はどうかというと、外交官としての経験やフランス語を含む語学力を生かして山下副会長をはじめとする宗岡チームの面々と協力することだ。早速山下氏と私はパリの国際大会にも行く。私にとっては、昨年暮れの東京グランドスラムで国際柔道連盟の役員や専門家の何人かと知り合ったのに続いて、互いに関心のある問題について彼らの意見を聞く機会になろう。願わくば、会場で読者の皆さまや柔道専門家の方々と出逢い、皆さんが大事だと考える事柄に関してご意見を伺いたいものだ。どなたの意見も大事である。ベルシー体育館でお会いできるのが楽しみだ。日本は世界の柔道が健全に発展することに一層寄与する決意である。説得力のある議論が必要だが、様々な人の意見を謙虚に聞いて学ぶ姿勢も大事だと思う。乱取をするときのように、「はじめ!」と言いたい気持ちである。