小川郷太郎の「日本と世界」

日本から見たルーシー・デコス

ルーシー・デコスが本誌により2010年の最優秀選手に選ばれ、今月号の編集長にも任命された。この機会に私はデコスを知る日本の柔道家に彼女の評価を求めた。デコスをどう思うかと聞いたが、よい評価ばかりだった。  

日本女子チームの元監督で現在三井住友海上女子柔道部監督の柳澤久氏はこう語る。ちなみに、三井住友海上柔道部は数週間前の本誌で紹介したが、上野順恵、中村美里、山岸絵美(これだけで日本女子チームの半分近くを占める)などが所属している。 「先ず言えることは、デコスは一本で勝つことを何よりも追及する日本的な柔道を具現する本格的選手だ。試合で小細工をしない、逃げない、かけ逃げなどもしない。柔道らしい柔道をする。組む姿勢が良く、安定している。体の芯がしっかりしているから容易に崩せない。技術面でも大内などの技の入り方が鋭い。持ったらすぐ攻める。」

日本女子柔道界の草分けで1988年のソウルオリンピックメダリストであり、世界選手権でも優勝している山口香氏の見方はこうだ。 「私が感じているのは、身体能力が非常に優れた選手であるということ、中でも瞬発力が高くバランスが良いところです。そのため彼女の強みは、組み際に技を仕掛けることができ、また、どんな体勢からも相手の技に反応したり切り返すことができる点にある。 精神面においては、ジュニアのころから常に周囲からの大きなプレッシャーがあり期待が大きいせいか、1、2回戦などの序盤で慎重になりすぎることがあった。精神的に弱い選手だとは思わないが、周囲の期待が大きいので、そういった部分に配慮をして支援することが重要でしょう。」  

帝京大学柔道部総監督の鳥海又五郎氏は、デコスやジョシネも同行した最近のフランス女子ジュニアチームの日本での練習を指導した。同氏はデコスの練習を見て次のように言う。
「デコスは性格が良い。それ以外の強みの一つは、技の多彩さやちょっとした助言をすぐ飲み込んで自分のものとする能力だ。良い指導者になれる素質を備えている。非常に幅広い技をもち、様々なヴァリエーションのある大外刈や大内刈だけでなく、体落、回してかける内股なども見せた。彼女の柔道は本格的なものだ。わずかな助言でもすぐそれを自分のものとする能力がある。
ロンドン・オリンピックでは30歳を超えるだろうが、十分対応可能だと思う。その後、彼女の経験や技量を他に分け与えるようになれば、とても楽しみだ。良き伝道者となるすべての素質を備えている。」