小川郷太郎の「日本と世界」

フランス柔道誌 L’Eprit du Judo 「柔道の精神」

6・7月号 小川郷太郎便り(第2回 和訳)

試練を待つ日本

日本は、柔道の本家として、国際柔道大会で勝つことや世界で常に先頭に立つことに執着心をもっている。52年ぶりに東京で開かれる世界選手権が近づくなかで、特に男子選手にとって勝つことへのプレッシャーが高まっている。最近日本の男子選手が国際試合でメダルを取ることが次第に難しくなっている。昨年のロッテルダム大会では日本男子は史上初めて金メダルなしの完敗に終わった。他方で、日本の女子選手は大いに活躍し、日本人同士で決勝を争う可能性も期待できるまでなっているなかで、男子にとってロッテルダムの傷跡には深いものがあり、今でも話題に上がることがある。
新たな完敗を避けるための努力は続けられており、指導者たちには緊迫感も感じられる。男子監督の篠原氏は選手に強いプレッシャーをかけているが、間近に迫った世界選手権で日本の男子選手に目覚しい結果を期待することは困難だとも思われている。こうした中で、2012年のロンドンオリンピックを目指して長期的に若い選手を強化する方針も決められている。先般発表された世界選手権の代表選手をみると、100kg級以下の12人の代表選手の中で6人が19歳から21歳の現役学生であることがわかる。最近までの選手選考の基準は当該大会で勝ってすぐに結果を残せることであったが、この方針では若い選手に経験を積ませることを妨げる点で限界があることがわかったためか、これまでの欠陥を改め、大きな大会までに強くなるような指導方針に変わりつつあるように見える。
同一階級に各国から2名参加できるという新しい方式は、日本に有利に働くであろうか。日本の場合、女子選手については明らかにそうであろう。しかし男子については、私が話をした何人かの柔道専門家は、日本の選手は他国の選手に比べて抜きん出ている場合が多いわけではないので、他国選手が日本選手の勝ちあがりの壁となる虞を指摘している。
国際柔道連盟(IJF)は、今回の世界選手権で日本の立場を尊重して無差別級の試合を含めることを受け入れた。日本人にとって、無差別級こそ柔道試合の本来の姿であり、この階級で金メダルを取ることに、確信と言えないとしても、大きな期待を寄せている。
世界選手権東京大会の4ヶ月前の時点で、大会運営担当者は懸命に準備を進めているが、大会が当地で一般に広く話題になっているわけではない。準備上の課題には事欠かない。例えば、大会に日本的な雰囲気も醸し出したいとも考えている担当者にとっては、2月のパリのグランドスラム大会でみられた試合中の音楽などをどの程度におさめるか、野球やサッカーの方が人気の高い日本でいかに多くの観衆を動員するかなどの課題がある。また、私が得た情報では広告料金が昨年より相当値上げになっているらしく、スポンサー会社の中には出費に躊躇しているところもある。日本的運営も必要であるし、選手も最善を尽くすであろう。全柔連会長(兼講道館長)の上村春樹氏は、試合でも礼儀でも嘉納師範の教えが尊重されることを期待している。皆がそれを望んでいるが、簡単な課題でもない。